東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2616号 判決
控訴人は、本件月賦販売契約における違約金の約定は売主たる被控訴人に暴利を得せしめるものであつて公序良俗に反し無効であると主張する。よつて案ずるに、先ず、本件違約金も一般の違約金と同様民法第四二〇条第三項の規定により賠償額の予定と推定され、反対の証明は存しない。而して本件違約金の約定によれば、売主が契約所定の解除約款に基つき契約を解除した場合買主が売主に対して支払うべき違約金(買主が既に代金の一部として支払済みの金員で違約金として没収されることになるものを含む。以下同じ)の金額は、右解除の時期如何を問はず、即ち買主がその買受けた自動車を使用した期間の長短の如何ないしは右使用による自動車の交換価値の減損額如何に係りなく、常に売買代金額と同金額になる筋合である。而して右契約解除が為され且つ売主が直ちに自動車の返還を受けた場合において売主が買主の債務不履行に因つて通常被るべき損害は、売買価格と右解除時における自動車の現存交換価値との差額であること勿論であるから、右解除が契約の時から相当の期間を経過してから行われた場合は格別、それが契約の時から僅かの期間を経過したばかりの時に、例へば、買主が最初の月賦金の支払を怠つたため契約後僅かに一ケ月程度の時に行われた場合の如きは自動車の交換価値は左程に減少していないのが普通であろうから売主の被るべき前記損害は左まで大きくなく、これに比較し売買代金と同金額の違約金は著しく過大になる場合があると云わざるを得ないであろう。(但し自動車がその性質上消耗品であること、その使用程度、走行距離等は同じ一ケ月間でも之を使用する個人によつて極めて大幅な差異のあることを考へれば右説示の場合を契約後一ケ月で返還すべき場合に於ける原則とまで認め得るかは多分に疑問と謂はざるを得ない)。然し右は買主が契約解除によつて新らたに負担した自動車返還債務を即時履行した場合を前提とした立論であつて、若し買主が右債務の履行を遅滞したり又はその履行不能に陥つたりした場合―斯かる事態の発生することは、自動車という物件の特異性から考えても決して少くはないものと推測される―に売主の被るべき損害が拡大すべきことは当然であり、その損害額が自動車の当初の売買価格を越えることもあり得べきことは前記返還債務が履行不能となつた場合を考えれば、極めて見易い道理である。而して前示の如き売主の被るべき損害拡大の可能性は、買主が最初の月賦金の支払を怠つたため売主により契約解除が即時に行われた場合であれ、その他の場合であれ全く同様であつて少しも異るところはない。斯く観ると、本件のような違約金の約定は、単に当初の契約に定められた債務の不履行のみによる損害賠償額として予定されたものと解するよりは、寧ろこれと併せて、契約解除の結果生ずる買主の自動車返還債務の不履行に因る損害に備えての賠償額としても予定されたものと解するを相当とする。(従つて売主は買主の自動車返還債務の不履行があつても、当初の契約において定めた違約金以外になお損害ありとしてこれを買主に請求することは許されない。)而して本件違約金の約定にして右の如き趣旨のものである以上、且つ当初から占有を買主に移転してその使用に任せる本件月賦販売契約に於ける売主及び買主の利害、危険の負担等を考慮すれば、損害賠償の予定としての本件違約金契約は未だ以て公序良俗に反すると認めることは出来ない。(売主たる被控訴人が商人たる会社であり、本件買主である福山建設株式会社も然りであり、契約当時控訴人が同会社の代表者であり、而も同人の個人的企業であることは何れも弁論の全趣旨によつて明らかであるが、此等を考慮するとき一層然りである)。従つて控訴人の此点に関する主張は採用の限りでない。
(鈴木忠 加藤 宮崎)